
DTP制作環境の栄枯盛衰
PageMaker、QuarkXPress、InDesign、そしてCanvaへ続く現場の記憶
DTPの歴史を振り返ると、制作現場の中心となるソフトは何度も入れ替わってきました。PageMaker、QuarkXPress、InDesign。そして現在、急速に存在感を高めているCanva。
これは単なるソフトの世代交代ではなく、印刷物をつくる場所、求められる技術、制作に関わる人、そしてデザインそのものの役割が変わってきた歴史でもあるように思います。
PageMaker――海の向こうで始まったDTP革命
1985年に登場したPageMakerは、DTPという新しい制作方法を世の中に広めたソフトです。
それまで、印刷物の制作は、デザイナー、写植業者、版下制作者、製版会社など、複数の専門職による分業が基本でした。PageMakerは、文字や写真の配置、レイアウトの調整といった工程を、コンピューターの画面上へ持ち込みました。
画面を見ながら文字や写真を配置し、その場で位置や大きさを変更する。現在では当たり前の操作ですが、当時としては制作の常識を大きく変えるものでした。
――以上、教科書どおりの説明です。教科書があるならば、ですが。
ただし、1985年にPageMakerが登場したからといって、日本の印刷・制作現場がすぐにDTPへ移行したわけではありません。当時の日本から見れば、それはまだ海の向こうで始まった新しい出来事でした。日本語には、縦書き、禁則処理、ルビ、約物の調整など、欧文とは異なる独自の組版ルールがあります。アルファベットの横書きを前提に開発されたソフトと、日本語を扱うためのフォントや出力環境との間には、まだ大きな隔たりがありました。
少なくとも私たちの現場にとって、DTPが現実のものとして入ってくるのは、もう少し後のことです。その主役となったのが、QuarkXPressでした。
QuarkXPress――プロの制作現場を支配した王者
1990年代、出版、広告、印刷の現場で圧倒的な存在感を持ったのがQuarkXPressです。
制作会社も出版社も印刷会社も、QuarkXPressを前提にフォントや出力環境を整備し「Quarkでつくられていること」自体が、安心して印刷工程へ進めるための条件になっていた時代です。
ただし、最初から日本語組版に最適化されていたわけではありません。基本設計は欧文の横書きが前提だったため、縦書き、ルビ、禁則処理、など、日本語組版には必須の機能は標準では備わっていませんでした。
QuarkXPressが日本で業界標準になったのは、ソフトの限界を、オペレーター、フォントメーカー、出力センター、印刷会社がそれぞれの技術で補い、業界全体で安定した制作環境に育てたからです。
この時代のDTPは、ソフトと、人の工夫と技術とが一体となって成立していました。
(私はといえばQuarkXPressになじめず、ページものでもなんでもillustratorで作ってしまっていました)
さて、ここからぼやき。
InDesign――王者交代の転換点
1999年、AdobeはInDesignを発表しました。 しかし、登場してすぐにQuarkXPressから主役の座を奪ったわけではありません。初期のInDesignは動作が重く、安定性や出力環境にも不安がありました。データが大量に蓄積され、操作に習熟したオペレーターも大勢いたQuarkXPressから移行する理由はありませんでした。
しかし、Mac OS Xへの移行、OpenTypeフォントの登場やPDF入稿の普及など、周囲の環境変化が起こり、気が付いたら徐々にAdobe Creative Suiteに環境が変化していました。
QuarkXPressが突然敗れたのではなく、気づいたら時代遅れになっていた印象です。
(私はといえばInDesignにもなじめず、相変わらずなんでもillustratorで作ってしまっていました)
さて、ふたたびぼやき。
そして、Canvaの誕生――デザインする人が変わった
正直、この流れを目の当たりにしたときは、「またデファクトスタンダードの切り替わりを経験しなければならないのか」と、少し身構えました。制作環境が変わるたびに、新しい操作やワークフローを覚え、過去のデータとの互換性に悩まされてきたからです。
しかし、冷静に考えると、現時点でCanvaがInDesignに取って代わるとは考えにくいでしょう。
日常的な告知物や営業資料、SNSコンテンツはCanvaで制作する。一方、精密な日本語組版が必要なパンフレットや、ページ数の多い書籍、カタログなどは、プロがInDesignで制作する。
全面的な置き換えではなく、それぞれの強みを生かした役割分担が、今後さらに進んでいくのではないでしょうか。
(私はといえば相も変わらず、ページものでもなんでもillustratorで。。。)
AIによって「白紙からつくる」作業がなくなる
Canvaの変化をさらに加速させているのが生成AIです。
目的、対象者、掲載内容、雰囲気などを入力すると、AIが最初の案を提示します。人はゼロから配置するのではなく、AIがつくった案を選び、修正し、目的に合っているかを判断する。
一方で、何を伝えるべきかを整理する力、デザインの良し悪しを見極める力、ブランドの一貫性を守る力、印刷物として正しく成立しているかを判断する力は、これまで以上に重要になります。
「白紙からつくる」作業は、少しずつ減っていくかもしれません。
しかし、AIが制作を簡単にするほど、最終的な判断を行う人間の知識と経験がより問われていくはずです。
CanvaとAIの時代、われわれに求められること
CanvaやAIの普及によって、お客様自身がチラシや営業資料、SNSコンテンツをつくる機会は、これからさらに増えていきます。それに伴い、われわれの提案領域も、完成したデータを受け取り、用紙や加工、部数を提案するだけでなく、制作の進め方や活用方法そのものへ広げていく必要があります。
依頼に的確に応えるだけでなく、お客様の目的を理解し、より効果的な伝え方や仕組みを提案する。
それが、CanvaとAIの時代における、印刷会社の新しい役割だと考えています。

